大判例

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東京高等裁判所 平成8年(う)856号 判決

吹野巡査長が湯原方寝室における犯行を目撃した直後に,威嚇のための1発及び犯人の膝付近をねらった2発のけん銃を,川村巡査が湯原方庭先に出てきた犯人らとブロック塀を挟んで対峙する形になった際に,威嚇のために1発のけん銃を,平元巡査が逃走を開始してワゴン車の方に犯人らが向かった際に,威嚇のための2発及び犯人の足元付近をねらった2発のけん銃をそれぞれ撃っている事実,その後,被告人は,道路北側寄りをワゴン車方向に進んでいた犯人らのかたまりから,鉄パイプようの棒を持って勢いよく道路中央に飛び出し,いきなり平元巡査に鉄パイプようの棒で殴り掛かり,次に石川巡査の方に向きを変え,これを更に高く振り上げて,同巡査に殴り掛かった事実,その瞬間に,吹野巡査長,石川巡査及び平元巡査がほぼ一斉にけん銃を一発ずつ撃った事実がそれぞれ認められる。このような事実経過からすると,石川巡査が即座に殺されるとはいかないまでも,少なくとも重傷を負いかねないという急迫不正の侵害に直面したと3名の警察官において判断したとしてもそれは自然であり,この侵害から石川巡査を防衛する意思でそれぞれけん銃を撃ったといえるのであって,それ自体は首肯することができる。なお,所論は,事前の警告なしにけん銃を撃ったことの違法をいい,また,急迫性の点につき,犯人の抵抗は逮捕警察官にとって当然に予期されるものであるというが,急迫不正の侵害に対する警告の有無は問題にならないし,前記のような抽象的な予期だけで急迫性が否定されるものでもない。

もっとも,吹野巡査長,石川巡査及び平元巡査によるけん銃の発射は,石川巡査の生命身体を防衛するためであり,しかも,急を要するものであったとはいえ,身体の枢要部を避けるという配慮をすることなく,ただ被告人の方に向けてされており,現に2発の弾丸が被告人の胸部と頚部に命中して被告人を負傷させていることにかんがみると,客観的には,それは防衛手段としての相当性の範囲を超えるものとして刑法36条2項の過剰防衛に該当し,その限度で違法性を帯びることを否定し得ない。

しかしながら,3名の警察官によるけん銃の発射は,被告人を逮捕するためではなく,あくまでも被告人からの攻撃に対する防衛のためにされたものであるから,その後の逮捕行為とは区別して考えることができる。そのような観点からすれば,被弾した被告人がその場に倒れ,逮捕が容易になったという事実関係があるとしても,それにより本件証拠物の押収手続が違法になることはないといえる。仮に,けん銃の発射態様の違法が逮捕手続に承継され,本件証拠物は違法な逮捕を利用して収集されたとの立場を採るとしても,その違法は,強度の攻撃を避けるについて防衛の程度を超えたというものであり,しかも,吹野巡査長らによる威嚇射撃などのけん銃発射の事実があったにもかかかわらず,なおも被告人が攻撃を加えてきたことにもかんがみると,本件証拠物を違法収集証拠として排除しなければならないほどに重大であるとは解されない。いずれにしても,原判決が,本件証拠物の証拠能力を認め,事実認定の資料にしたことは適法であるから,訴訟手続の法令違反はないといえる。

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